トリブラに愛を注ぎつつ、私的おすすめ本の紹介や、読んだ本にまつわるssなど、思いつくままに・・・
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やばい。
ハマってしまいそうです、アンリミ、こと『THE UNLIMITED 兵部京介』。
ええ、先日感想を書いたばかりの、絶対可憐チルドレンのスピンオフです。
オリキャラであるアンディ・ヒノミヤ役で諏訪部さんがご出演アニメですよ♪
だって、アンディさん、カッコいいんですもん!
兵部さんも素敵だし。
つい、絶チルの1巻と10巻を買ってしまいましたvv
と、いうわけで。
さっそくアンリミのSSを書いてしまいました(え)
※これは、アニメの「幸せな」ラストを、私個人が勝手に妄想してみたものです。
※書いている時点では、まだ第一話しか放送していない上に、私自身が絶チルをほぼ未読なので、まったく手探りの状態で書いています。
と、いうわけで、以下、
「それでもいいよ!」という心優しい方は、どうぞお付き合いくださいませ。
*************************
遠くで、煙が立ち上るのが見えた。
カタストロフィ号のデッキでそれを見つめながら、アンディ・ヒノミヤは、険しい表情を作っていた。
それは、数ヶ月前、USEI捜査官アンディ・ヒノミヤがここに来たときから、すでに予告されていたもの。
ーーつまり、帰還命令だ。
本来であれば、煙が立ち上った時点で、ヒノミヤはすぐにここを去るべきであった。
実際、この数ヶ月間、その方法については何度も確認してきたし、今だって逃げようと思えば可能だ。
しかし、可能にもかかわらず、ヒノミヤはまったく足が動かなかった。
彼は、躊躇してしまっていたのだ。このまま帰ってしまってよいのか、と・・・。
帰れば、自分は彼らーーP.A.N.D.R.Aのことを、彼らと共に過ごしたこの数ヶ月の日々のことを、報告しなければならない。
それは、彼らにとって、必ずしも好ましいことではないだろう。
この数ヶ月で、ヒノミヤの彼らに対する印象は大きく変わった。
ヒノミヤの見た彼らは、決して単なる「エスパー犯罪組織」ではなかった。
彼らは、ある種の信念をもち、彼らの正義のもとに行動していた。
単なる厄介な犯罪者集団ではなかったのだ。
だからーー。
数ヶ月前には全く躊躇しなかったことが、今では、とても後ろめたく思ってしまう。
自分はスパイ失格だ。捜査対象に、こんなにも肩入れしてしまうだなんて!
ヒノミヤが、自分の中で葛藤に打ちひしがれていると。
「ーー行けよ」
「えっ・・・?」
ふと隣を見ると、いつの間にか兵部が立っていた。
いつからそこに立っていたのだろうか。まったく油断も隙もあったものではない。
「あっちで、お仲間がきみを呼んでいるぞ」
「なっ・・・!」
「きみ、スパイなんだろ。
知ってるよ、そんなことくらい。僕を誰だと思っているんだい?
僕は、兵部京介なんだよ」
兵部の確信に満ちた顔に、ヒノミヤは少し表情を緩める。
「・・・そうだったな」
やはり、最初からこの男は気づいていたのだ。
自分が彼に近づいてきた真の理由を。知っていて、この数ヶ月間、彼はずっと自分を泳がし続けていたのだ。
うすうす気づいてはいたものの、正面切ってそういわれると、さすがのヒノミヤも拍子抜けしてしまう。
だがその一方で、スパイにも関わらず最初から正体がバレていたというのに、なぜだか全く罪悪感がわかない。
この男の前では、どんな自分の愚考も笑って許してしまいそうになるから不思議だ。
ヒノミヤがそんなことを考えていると、兵部がふと、これまでのことを思い出すような口調で話しかけてきた。
「この数ヶ月間、僕はとても楽しかったよ。久しぶりに、骨のある奴にめぐり会えた気分だ。
それにきみは、なかなかにいたぶり甲斐のある男だったしね」
「なんだとっ!」
「ああ、そうやってムキになるところは、少しも変わらないねぇ、出会ったばかりの頃と」
「むっ・・・」
「この数ヶ月で、きみは随分成長したように感じたのだけれど、それは僕の勘違いだったかな?」
「言ってろ!」
ムッとしてヒノミヤがそっぽむくと、兵部はふと大人びた表情になって言った。
「きみは、ありのままを報告すればいい。
ここで起こったことも、きみの目で見たものも、すべて見たままに言えばいいんだ。
僕は、決して止めはしない。それはきみに与えられた役割なんだし、たとえそれが僕らにとって不利な情報であったとしても、それを妨げる権利は僕にはないよ」
「しょっ・・・少佐!」
「いくらなんでも、そんな虫のいいこと言って・・・っ!」
兵部の意外な言葉に、背後で様子をうかがっていたP.A.N.D.R.Aのメンバーが驚く。
しかし、彼らの忠告など全く耳を傾ける様子はなく、兵部はヒノミヤに笑いかけた。
その表情に、戸惑いを浮かべていたヒノミヤも、思わずほほえみ返す。
なんだか、胸のつかえがとれたような気がして、これから自分がやるべき事がみえた気がしたのだ。
「・・・ありがとう、兵部。
じゃあ、おまえの言うとおり、俺は、俺の見たままを報告することにするよ。それは、必ずしもお前にとって都合のいい情報ばかりじゃないだろうけど、いいよな?」
「ああ、男に二言はない」
兵部は強く頷いた。そして、ふと思い出したような表情になって、付け加える。
「それに・・・
“兵部”じゃない。“京介”だろ?」
言ったろ?といわんばかりの表情に、ヒノミヤは驚いて思わず兵部の顔を見る。
しかし、確信めいた兵部の表情に、静かに頷いた。
「・・・ああ、“京介”!」
「なっ・・・!」
思わぬ呼称に、P.A.N.D.R.Aのメンバーは驚く。
何しろ、長年付き添ってきた自分たちですら、兵部のことを“京介”と呼んだことはないのだ。それを、こんな数ヶ月前に出会ったばかりの男に許すとは!
しかし、P.A.N.D.R.Aのメンバーの視線などどこ吹く風で、兵部は受け流した。
そして、ヒノミヤに向かって手を差し出す。
「しっかり報告しろよーー捜査官アンディ・ヒノミヤ」
差し出された手を、ヒノミヤは強く握り返した。
「・・・ああ!」
「帰りたくなったら、いつでも来い。歓迎してやる。
きみはもう、僕たちP.A.N.D.R.Aの一員なんだからな」
「じゃあーー」
ヒノミヤは、ふとジャケットのポケットから、ストラップを取り出した。
それは、初めて出会ったときに、兵部が冗談半分で差しだした自分のストラップだった。
「そのときまで、これを預かっていてくれないか?」
「これは・・・」
思わぬものが出てきたと言わんばかりに、兵部は目を丸くした。渡したことすら、ほとんど忘れていたのだろう。
すると、ヒノミヤは茶化したような口調になって言った。
「“今なら入会金無料”。これは、入会記念の品なんだろ?」
「・・・そうだったな。
よし、これは、きみの部屋に置いといてやる。
だから、きみも必ず取りに来いよ」
兵部の言葉に、ヒノミヤは強く頷いた。
「ああ、もちろんだとも!」
こうして、ヒノミヤはカタストロフィ号を去っていった。
彼が去った後も、しばらく兵部は船のデッキから離れようとはしなかった。
ただ黙ってじっと海を見つめながら、物思いに耽っている様子である。
珍しく考え事を続ける少佐に、P.A.N.D.R.Aのメンバーは意外そうな表情を向けた。
そしてやがて、兵部の心を察するようにして、真木が声をかけた。
「ーーいいんですか、少佐。あいつをあっさり帰しちまって?」
すると、海を見つめたまま、兵部は答えた。
「いいんだよ。大丈夫、あいつは、僕たちにとって不利なことは言わないさ」
「随分と信用しているんですね、あの男のことを」
「もちろんだとも。
・・・なにしろ彼は、僕がこのクイーンに乗せてもいいと選んだ、数少ない男なんだからな」
「あ・・・」
「真木、きみも、わかってるんだろ?
彼は、良くも悪くも公明正大な男だ。ノーマルなんぞに雇われてはいるが、決して、ノーマルやエスパーなんてものにこだわってはいない。
・・・ある意味、僕も見習うべきなのかもしれないな」
「少佐・・・」
「彼にとって、なにが正義でなにが悪なのか。それは、彼に判断させればいい。その上で、向こうもどう対応するか考えるだろうからさ」
そのときの兵部の声には、その言葉とは別に、心なしか、すねた子供のような色が混じっていた。
まるでおもちゃを奪われた子供のような口調に、真木は彼の心中を察する。
ーーつまりは、兵部は寂しいのだ、と。
あんなにかっこよく送り出した割には、兵部は、苦渋の思いでヒノミヤを手放していたのだろう。
そういうところは、まだまだ子供なのだな、と真木は思った。
御歳80歳を越そうとも、そういうところだけは、彼はまだまだ見た目通りなのだ。
だからこそ、自分たちがしっかり彼をサポートしていかねばならない、と真木は思う。
だから彼は、このとき兵部に向かって、こう言った。
「しかし、どうしてくれるんですか、少佐」
突然、真木から叱責の声を上げられ、兵部は身に覚えがないと言わんばかりに真木を見た。
「急になんだ真木?藪から棒に」
「あんな男をあっさりと帰しちまって、P.A.N.D.R.Aは大損害ですよ」
「へっ?」
目を丸くする、兵部。
「おい真木・・・まさかお前、あいつが本気で僕らの害になるとでも、思っているのかい?」
「ええ、そうですとも。
・・・彼を失って、我々P.A.N.D.R.Aは大損害です。せっかく、少佐にお誂え向きの、いい暇つぶしの道具ができたっていうのに」
真木の言葉に、兵部は思わず拍子抜けしたような表情になり、目を瞬いた。
しかし、真木の言葉の意味するところを悟るや、すぐに大声を上げて笑いだした。
「あはははっ!
そりゃ確かにそうだ!僕はどうやら、とんでもないものをうっかり手放してしまったらしい!」
兵部の開き直ったような明るい笑い声に、P.A.N.D.R.Aのメンバーも表情を緩める。
「本当に残念ですね。少佐、彼のこと結構気に入っていたんでしょう?」
「私は、本気で少佐が、彼をP.A.N.D.R.Aに引き入れると思っていましたよ。
ほしいものには何でも、子供並の執着心で手に入れる少佐が、彼をあっさり返したときは、拍子抜けしてしまいました。
てっきり、彼のことも強引にP.A.N.D.R.Aに引き込むのかと思って」
「ええ、俺たちにそうしたようにね」
すると、兵部は「わかっていないなぁ」と言って、人差し指を横に振った。
「彼は、もうすでに僕たちP.A.N.D.R.Aの一員さ。
だが、彼には彼でやらなければならない仕事がある。だから僕は、彼をP.A.N.D.R.Aの捜査員として(・・・・・・・・・)、あの組織に派遣したんだよ?」
「またそんなこと言って。いい歳して、負け惜しみはみっともないですよ、少佐」
「負け惜しみなんかじゃないさ。
ただ、彼は彼のすべき仕事を全うする。僕は、それをみてみたくなっただけだよ」
そう言うと兵部は、ヒノミヤの去っていった方角の海を仰ぎみた。
(さて、きみはこの数ヶ月の出来事を、どういう風に報告するをだろうね。
僕は、それが知りたいんだ。
きみが、思ったことを。感じたありのままのことを。
それは、僕にとって、とても大切な気がするからーー)
所属するUSEIの船に乗船すると、ヒノミヤは息つく間もなく、すぐに上司の部屋に呼ばれた。
それだけ自分は、重要な情報を持ち帰ってきたと認識されているのだろう。
部屋へと続く長い廊下を歩きながら、ヒノミヤはぼんやりとそんなことを考えていた。
正直、まだ報告できるほどに頭の中は整理できていない。この数ヶ月間では、それだけいろいろなことがありすぎたのだ。
しかし、それにもかかわらず、ヒノミヤは上司のいる部屋のドアをノックすることに躊躇しなかった。
なにより、今感じていることを、そのまま上司に報告したかったのだ。
彼が見てきたままのことを。何の先入観のない、このまっさらな気持ちのままのうちに。
ーーきみは、ありのままを報告すればいい。
ここで起こったことも、きみの目から見たすべてのものを、見たままに言えばいいんだ。
そのときふと、先刻の兵部の言葉が頭の中で聞こえてきた。
(ーーそうだ、俺には、ありのままを報告する義務がある。
この数ヶ月間みてきたそのままのことを、包み隠さずにーー)
気を引き締めると、ヒノミヤは、上司のいるであろう部屋のドドアを、強くノックした。
「失礼いたします。アンディ・ヒノミヤ、ただいま任務を終え、帰還いたしました」
「入れ」
部屋の中からすぐさま上官の返事が帰ってきた。
どうやら待ちわびていたらしい。入るなり、正面の机で肘を突いた上官の鋭い視線が、ヒノミヤを捉えてきた。
「ご苦労だった、捜査官アンディ・ヒノミヤ。
早速だが、報告してもらおうか。君が潜入を果たしたエスパー犯罪組織、P.A.N.D.R.Aについて」
一礼していたヒノミヤは、上官アランの声に答えるようにして、ゆっくりと顔を上げた。
ヒノミヤの決意に満ちた目が、そこにある。
いつもと違うその表情に気づいて、上官のアランは「おや?」と思った。
この優秀な部下を持って数年。
今までに、彼のこんなに凛とした姿を見たことがあっただろうか?
今回の潜入捜査では、どうやら彼自身(・・)についても、収穫があったらしい。
アランは内心で微笑むと、報告に来た部下に好奇に満ちた目を向けた。
そして、密かに誓う。
これから彼が報告することには、一言一句漏らさず耳を傾けようと。
きっと、収穫に満ちた報告が待っているのだろうから、と・・・。
「はい。それでは、今回私が潜入捜査をした、エスパー集団P.A.N.D.R.Aという組織について、報告いたしますーー」
ーーENDーー
*********************
と、いうわけで、アンリミの勝手な最終回の妄想でした。
おつきあいくださいました方、ありがとうございました!
何だかいろいろ秘密がありそうなアンディさんについては、最後までいい人設定のままがいいな~っということで。
そして、少佐との素敵な友情(?)を得つつ帰っていくのがいいな~・・・っということで。
このアニメは、おそらく「アンディさんから見た兵部さん」が一つのテーマでしょうし、
「兵部さんと接することで、アンディさんがエスパーやノーマルについて考えさせられる」という展開が予想されますので、
その一つの答えとして、こういうラストも全くナシではないかな、と。
っていうか、こういうラストでの男の友情って、さわやかで好きだ!(え)
兵部さんとアンディさんには、ぜひ、素敵な友情をはぐくんでいただきたいものです(ナニ)
以上、アニメから絶チルに入った初心者による、勝手な妄想でした(汗)
…あ、ちなみに。
別れ際にアンディさんが「預かっておいてくれ」と言って少佐に渡したのが何故アレなのか(笑)という点は…。
単に、現在放送済みの第一話で、他に兵部さんがアンディさんに渡してる「それらしいもの」が、それしかなかったからです(え)
(いや、実際にはそれも渡してるかは不明なんですが)
シリアスなシーンに何故アレ?(笑)という理由は、単にそれだけですんで。
ハマってしまいそうです、アンリミ、こと『THE UNLIMITED 兵部京介』。
ええ、先日感想を書いたばかりの、絶対可憐チルドレンのスピンオフです。
オリキャラであるアンディ・ヒノミヤ役で諏訪部さんがご出演アニメですよ♪
だって、アンディさん、カッコいいんですもん!
兵部さんも素敵だし。
つい、絶チルの1巻と10巻を買ってしまいましたvv
と、いうわけで。
さっそくアンリミのSSを書いてしまいました(え)
※これは、アニメの「幸せな」ラストを、私個人が勝手に妄想してみたものです。
※書いている時点では、まだ第一話しか放送していない上に、私自身が絶チルをほぼ未読なので、まったく手探りの状態で書いています。
と、いうわけで、以下、
「それでもいいよ!」という心優しい方は、どうぞお付き合いくださいませ。
*************************
遠くで、煙が立ち上るのが見えた。
カタストロフィ号のデッキでそれを見つめながら、アンディ・ヒノミヤは、険しい表情を作っていた。
それは、数ヶ月前、USEI捜査官アンディ・ヒノミヤがここに来たときから、すでに予告されていたもの。
ーーつまり、帰還命令だ。
本来であれば、煙が立ち上った時点で、ヒノミヤはすぐにここを去るべきであった。
実際、この数ヶ月間、その方法については何度も確認してきたし、今だって逃げようと思えば可能だ。
しかし、可能にもかかわらず、ヒノミヤはまったく足が動かなかった。
彼は、躊躇してしまっていたのだ。このまま帰ってしまってよいのか、と・・・。
帰れば、自分は彼らーーP.A.N.D.R.Aのことを、彼らと共に過ごしたこの数ヶ月の日々のことを、報告しなければならない。
それは、彼らにとって、必ずしも好ましいことではないだろう。
この数ヶ月で、ヒノミヤの彼らに対する印象は大きく変わった。
ヒノミヤの見た彼らは、決して単なる「エスパー犯罪組織」ではなかった。
彼らは、ある種の信念をもち、彼らの正義のもとに行動していた。
単なる厄介な犯罪者集団ではなかったのだ。
だからーー。
数ヶ月前には全く躊躇しなかったことが、今では、とても後ろめたく思ってしまう。
自分はスパイ失格だ。捜査対象に、こんなにも肩入れしてしまうだなんて!
ヒノミヤが、自分の中で葛藤に打ちひしがれていると。
「ーー行けよ」
「えっ・・・?」
ふと隣を見ると、いつの間にか兵部が立っていた。
いつからそこに立っていたのだろうか。まったく油断も隙もあったものではない。
「あっちで、お仲間がきみを呼んでいるぞ」
「なっ・・・!」
「きみ、スパイなんだろ。
知ってるよ、そんなことくらい。僕を誰だと思っているんだい?
僕は、兵部京介なんだよ」
兵部の確信に満ちた顔に、ヒノミヤは少し表情を緩める。
「・・・そうだったな」
やはり、最初からこの男は気づいていたのだ。
自分が彼に近づいてきた真の理由を。知っていて、この数ヶ月間、彼はずっと自分を泳がし続けていたのだ。
うすうす気づいてはいたものの、正面切ってそういわれると、さすがのヒノミヤも拍子抜けしてしまう。
だがその一方で、スパイにも関わらず最初から正体がバレていたというのに、なぜだか全く罪悪感がわかない。
この男の前では、どんな自分の愚考も笑って許してしまいそうになるから不思議だ。
ヒノミヤがそんなことを考えていると、兵部がふと、これまでのことを思い出すような口調で話しかけてきた。
「この数ヶ月間、僕はとても楽しかったよ。久しぶりに、骨のある奴にめぐり会えた気分だ。
それにきみは、なかなかにいたぶり甲斐のある男だったしね」
「なんだとっ!」
「ああ、そうやってムキになるところは、少しも変わらないねぇ、出会ったばかりの頃と」
「むっ・・・」
「この数ヶ月で、きみは随分成長したように感じたのだけれど、それは僕の勘違いだったかな?」
「言ってろ!」
ムッとしてヒノミヤがそっぽむくと、兵部はふと大人びた表情になって言った。
「きみは、ありのままを報告すればいい。
ここで起こったことも、きみの目で見たものも、すべて見たままに言えばいいんだ。
僕は、決して止めはしない。それはきみに与えられた役割なんだし、たとえそれが僕らにとって不利な情報であったとしても、それを妨げる権利は僕にはないよ」
「しょっ・・・少佐!」
「いくらなんでも、そんな虫のいいこと言って・・・っ!」
兵部の意外な言葉に、背後で様子をうかがっていたP.A.N.D.R.Aのメンバーが驚く。
しかし、彼らの忠告など全く耳を傾ける様子はなく、兵部はヒノミヤに笑いかけた。
その表情に、戸惑いを浮かべていたヒノミヤも、思わずほほえみ返す。
なんだか、胸のつかえがとれたような気がして、これから自分がやるべき事がみえた気がしたのだ。
「・・・ありがとう、兵部。
じゃあ、おまえの言うとおり、俺は、俺の見たままを報告することにするよ。それは、必ずしもお前にとって都合のいい情報ばかりじゃないだろうけど、いいよな?」
「ああ、男に二言はない」
兵部は強く頷いた。そして、ふと思い出したような表情になって、付け加える。
「それに・・・
“兵部”じゃない。“京介”だろ?」
言ったろ?といわんばかりの表情に、ヒノミヤは驚いて思わず兵部の顔を見る。
しかし、確信めいた兵部の表情に、静かに頷いた。
「・・・ああ、“京介”!」
「なっ・・・!」
思わぬ呼称に、P.A.N.D.R.Aのメンバーは驚く。
何しろ、長年付き添ってきた自分たちですら、兵部のことを“京介”と呼んだことはないのだ。それを、こんな数ヶ月前に出会ったばかりの男に許すとは!
しかし、P.A.N.D.R.Aのメンバーの視線などどこ吹く風で、兵部は受け流した。
そして、ヒノミヤに向かって手を差し出す。
「しっかり報告しろよーー捜査官アンディ・ヒノミヤ」
差し出された手を、ヒノミヤは強く握り返した。
「・・・ああ!」
「帰りたくなったら、いつでも来い。歓迎してやる。
きみはもう、僕たちP.A.N.D.R.Aの一員なんだからな」
「じゃあーー」
ヒノミヤは、ふとジャケットのポケットから、ストラップを取り出した。
それは、初めて出会ったときに、兵部が冗談半分で差しだした自分のストラップだった。
「そのときまで、これを預かっていてくれないか?」
「これは・・・」
思わぬものが出てきたと言わんばかりに、兵部は目を丸くした。渡したことすら、ほとんど忘れていたのだろう。
すると、ヒノミヤは茶化したような口調になって言った。
「“今なら入会金無料”。これは、入会記念の品なんだろ?」
「・・・そうだったな。
よし、これは、きみの部屋に置いといてやる。
だから、きみも必ず取りに来いよ」
兵部の言葉に、ヒノミヤは強く頷いた。
「ああ、もちろんだとも!」
こうして、ヒノミヤはカタストロフィ号を去っていった。
彼が去った後も、しばらく兵部は船のデッキから離れようとはしなかった。
ただ黙ってじっと海を見つめながら、物思いに耽っている様子である。
珍しく考え事を続ける少佐に、P.A.N.D.R.Aのメンバーは意外そうな表情を向けた。
そしてやがて、兵部の心を察するようにして、真木が声をかけた。
「ーーいいんですか、少佐。あいつをあっさり帰しちまって?」
すると、海を見つめたまま、兵部は答えた。
「いいんだよ。大丈夫、あいつは、僕たちにとって不利なことは言わないさ」
「随分と信用しているんですね、あの男のことを」
「もちろんだとも。
・・・なにしろ彼は、僕がこのクイーンに乗せてもいいと選んだ、数少ない男なんだからな」
「あ・・・」
「真木、きみも、わかってるんだろ?
彼は、良くも悪くも公明正大な男だ。ノーマルなんぞに雇われてはいるが、決して、ノーマルやエスパーなんてものにこだわってはいない。
・・・ある意味、僕も見習うべきなのかもしれないな」
「少佐・・・」
「彼にとって、なにが正義でなにが悪なのか。それは、彼に判断させればいい。その上で、向こうもどう対応するか考えるだろうからさ」
そのときの兵部の声には、その言葉とは別に、心なしか、すねた子供のような色が混じっていた。
まるでおもちゃを奪われた子供のような口調に、真木は彼の心中を察する。
ーーつまりは、兵部は寂しいのだ、と。
あんなにかっこよく送り出した割には、兵部は、苦渋の思いでヒノミヤを手放していたのだろう。
そういうところは、まだまだ子供なのだな、と真木は思った。
御歳80歳を越そうとも、そういうところだけは、彼はまだまだ見た目通りなのだ。
だからこそ、自分たちがしっかり彼をサポートしていかねばならない、と真木は思う。
だから彼は、このとき兵部に向かって、こう言った。
「しかし、どうしてくれるんですか、少佐」
突然、真木から叱責の声を上げられ、兵部は身に覚えがないと言わんばかりに真木を見た。
「急になんだ真木?藪から棒に」
「あんな男をあっさりと帰しちまって、P.A.N.D.R.Aは大損害ですよ」
「へっ?」
目を丸くする、兵部。
「おい真木・・・まさかお前、あいつが本気で僕らの害になるとでも、思っているのかい?」
「ええ、そうですとも。
・・・彼を失って、我々P.A.N.D.R.Aは大損害です。せっかく、少佐にお誂え向きの、いい暇つぶしの道具ができたっていうのに」
真木の言葉に、兵部は思わず拍子抜けしたような表情になり、目を瞬いた。
しかし、真木の言葉の意味するところを悟るや、すぐに大声を上げて笑いだした。
「あはははっ!
そりゃ確かにそうだ!僕はどうやら、とんでもないものをうっかり手放してしまったらしい!」
兵部の開き直ったような明るい笑い声に、P.A.N.D.R.Aのメンバーも表情を緩める。
「本当に残念ですね。少佐、彼のこと結構気に入っていたんでしょう?」
「私は、本気で少佐が、彼をP.A.N.D.R.Aに引き入れると思っていましたよ。
ほしいものには何でも、子供並の執着心で手に入れる少佐が、彼をあっさり返したときは、拍子抜けしてしまいました。
てっきり、彼のことも強引にP.A.N.D.R.Aに引き込むのかと思って」
「ええ、俺たちにそうしたようにね」
すると、兵部は「わかっていないなぁ」と言って、人差し指を横に振った。
「彼は、もうすでに僕たちP.A.N.D.R.Aの一員さ。
だが、彼には彼でやらなければならない仕事がある。だから僕は、彼をP.A.N.D.R.Aの捜査員として(・・・・・・・・・)、あの組織に派遣したんだよ?」
「またそんなこと言って。いい歳して、負け惜しみはみっともないですよ、少佐」
「負け惜しみなんかじゃないさ。
ただ、彼は彼のすべき仕事を全うする。僕は、それをみてみたくなっただけだよ」
そう言うと兵部は、ヒノミヤの去っていった方角の海を仰ぎみた。
(さて、きみはこの数ヶ月の出来事を、どういう風に報告するをだろうね。
僕は、それが知りたいんだ。
きみが、思ったことを。感じたありのままのことを。
それは、僕にとって、とても大切な気がするからーー)
所属するUSEIの船に乗船すると、ヒノミヤは息つく間もなく、すぐに上司の部屋に呼ばれた。
それだけ自分は、重要な情報を持ち帰ってきたと認識されているのだろう。
部屋へと続く長い廊下を歩きながら、ヒノミヤはぼんやりとそんなことを考えていた。
正直、まだ報告できるほどに頭の中は整理できていない。この数ヶ月間では、それだけいろいろなことがありすぎたのだ。
しかし、それにもかかわらず、ヒノミヤは上司のいる部屋のドアをノックすることに躊躇しなかった。
なにより、今感じていることを、そのまま上司に報告したかったのだ。
彼が見てきたままのことを。何の先入観のない、このまっさらな気持ちのままのうちに。
ーーきみは、ありのままを報告すればいい。
ここで起こったことも、きみの目から見たすべてのものを、見たままに言えばいいんだ。
そのときふと、先刻の兵部の言葉が頭の中で聞こえてきた。
(ーーそうだ、俺には、ありのままを報告する義務がある。
この数ヶ月間みてきたそのままのことを、包み隠さずにーー)
気を引き締めると、ヒノミヤは、上司のいるであろう部屋のドドアを、強くノックした。
「失礼いたします。アンディ・ヒノミヤ、ただいま任務を終え、帰還いたしました」
「入れ」
部屋の中からすぐさま上官の返事が帰ってきた。
どうやら待ちわびていたらしい。入るなり、正面の机で肘を突いた上官の鋭い視線が、ヒノミヤを捉えてきた。
「ご苦労だった、捜査官アンディ・ヒノミヤ。
早速だが、報告してもらおうか。君が潜入を果たしたエスパー犯罪組織、P.A.N.D.R.Aについて」
一礼していたヒノミヤは、上官アランの声に答えるようにして、ゆっくりと顔を上げた。
ヒノミヤの決意に満ちた目が、そこにある。
いつもと違うその表情に気づいて、上官のアランは「おや?」と思った。
この優秀な部下を持って数年。
今までに、彼のこんなに凛とした姿を見たことがあっただろうか?
今回の潜入捜査では、どうやら彼自身(・・)についても、収穫があったらしい。
アランは内心で微笑むと、報告に来た部下に好奇に満ちた目を向けた。
そして、密かに誓う。
これから彼が報告することには、一言一句漏らさず耳を傾けようと。
きっと、収穫に満ちた報告が待っているのだろうから、と・・・。
「はい。それでは、今回私が潜入捜査をした、エスパー集団P.A.N.D.R.Aという組織について、報告いたしますーー」
ーーENDーー
*********************
と、いうわけで、アンリミの勝手な最終回の妄想でした。
おつきあいくださいました方、ありがとうございました!
何だかいろいろ秘密がありそうなアンディさんについては、最後までいい人設定のままがいいな~っということで。
そして、少佐との素敵な友情(?)を得つつ帰っていくのがいいな~・・・っということで。
このアニメは、おそらく「アンディさんから見た兵部さん」が一つのテーマでしょうし、
「兵部さんと接することで、アンディさんがエスパーやノーマルについて考えさせられる」という展開が予想されますので、
その一つの答えとして、こういうラストも全くナシではないかな、と。
っていうか、こういうラストでの男の友情って、さわやかで好きだ!(え)
兵部さんとアンディさんには、ぜひ、素敵な友情をはぐくんでいただきたいものです(ナニ)
以上、アニメから絶チルに入った初心者による、勝手な妄想でした(汗)
…あ、ちなみに。
別れ際にアンディさんが「預かっておいてくれ」と言って少佐に渡したのが何故アレなのか(笑)という点は…。
単に、現在放送済みの第一話で、他に兵部さんがアンディさんに渡してる「それらしいもの」が、それしかなかったからです(え)
(いや、実際にはそれも渡してるかは不明なんですが)
シリアスなシーンに何故アレ?(笑)という理由は、単にそれだけですんで。
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