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長らく続けてまいりました、
落第忍者伊作」、略して「落・伊」


「6人そろえば、怖くない!?の段」の第2回をお送りします。

これが、今回のお話の最終話となります。
6人は、無事忍術学園に帰ってこられるか?
そして、話の最初に出てきた、あの大火傷の人もいよいよ・・・?

ここまで長々と続けてきたにもかかわらず、
お付き合いいただきました方、ありがとうございました!

では、よろしければ、以下、おつきあいください

**************

――と、その時。
「――うぎゃあっ!」
 恐怖のあまり目を閉じた6人の前で、山賊たちの悲鳴が上がった。
 恐る恐る、6人が目を開けてみると、そこには・・・

 
――見たことのない、一人の忍者が立っていた。

 その忍者は、灰色の忍び装束に身を包み、顔には何重にも覆われた包帯をしている。
 巻き方はあまりにも雑で、片目がほとんど隠れてしまっているが、それにもかかわらず、その忍者の強さは何人もの落ち武者たちを相手に、まったく劣ることがない。
 それどころか、すべての落ち武者たちが、まるで一人の忍者の手の内で踊っているかのようだ。
 こうして、彼の周りにもはや立っているものはなく、6人を襲った山賊たちは全員、道の端々に倒れて動かなくなってしまった。
「ど、どういうこと・・・?」
「あの、忍者が私たちを助けてくれたって、こと?」
 すると、彼らの声に気づいて忍者は振り返った。そして、伊作と留三郎に向って、気さくに手を挙げると。
「やあ、また会ったね、伊作くん」
 と言ったのだった。
「また会ったねって・・・だれ、ですか、あなたは・・・?どうして私の名前を?」
 すると、忍者は少し残念そうな顔をして、片目を細めた。
「きみが自分で名乗ったんじゃないか。
思い出さないかい、伊作くん。この包帯は、あのとき君が巻いてくれたものなんだよ」
 忍者は、そう言って、自分の顔に何重にも巻かれた包帯を指さした。
 その動作に、伊作は「あっ!」と声を上げる。
「あ、あなたは・・・・・・もしかして、あのときのおじさん!?」
 伊作の言葉に、忍者は静かにうなづいた。
「そうだったんだ・・・」
「忍者だったんだ・・・」
 驚いた様子で、伊作と留三郎は呟く。
「あのときは、任務の途中で怪我をしたところを、君たちに助けてもらったおかげで、敵から逃げ延びることができた。
だから、今度は、私が君たちを助ける番だと思ってね」
「じゃあ、この人たちは、ぜんぶおじさんが?」
 伊作の問いかけに、忍者は再度静かにうなづく。

 
 一方、そのやり取りを見ていた仙蔵は、どこか納得のいかない表情で、文次郎に話しかけた。
「おい・・・伊作のやつ、いつの間にあんな忍者と知り合いになったんだ?」
 しかし、文次郎もわけがわからない様子で、首を苦しげに横に振る。
「さあ、わからん・・・ただ、どうやら、たまたま知り合っただけのようだが」
「たまたまでも、すごいことじゃないか。あんな凄腕忍者、普通にしていても知り合いになれるがはずない。やはり、おそるべしだな、は組の実践訓練は・・・」
「ああ・・・」
 い組ペアは、揃ってうなづきあった。

 
 その間に、伊作と忍者のやりとりは続いていた。
「きみは最初から気づいていたんじゃないのか、私がただの老人でないことを。
この火傷の跡は、焼けた栗が顔にあたったからじゃない。あれは、任務の途中で、大火傷を負ったからだ。それをわかっていたからこそ君は、あの場で立ち去ることなく、私を必死に治療してくれたんじゃないかったのか」
「そ、そうだったのか、伊作・・・」
 留三郎が、驚いた様子で伊作の顔を見る。忍者の言葉を聞き、少し伊作を見直したらしい。
「あ、いや、あれは・・・」
 単に、保健委員として、目の前の怪我人を放っておけなかっただけなんだけどなぁ・・・とは、とても言えない伊作だった。
 伊作が困った様子で頭をかいていると、ふと、忍者が伊作に近付いてきた。何をされるんだろう!?伊作が驚いた様子で忍者を見つめていると、彼は伊作の耳元で、小声でこう言った。
「ああ、あとこれは、私の単なる私見だが・・・優しいのはいいが、あまり友達に迷惑をかけないほうがいいぞ。隣の彼は、どうやらいつも君のお節介に振り回されているようだ。たまには、彼のこともいたわってあげたほうがいい。――ではねッ!」
「ではねって、あのッ!」
 伊作はなおも問いかけようとしたが、もうそこには、忍者の姿は消えていたのだった。
「最後の言葉はどういう意味かなぁ。とめさぶろーのことをもう少しいたわってやれって。私は、とめさぶろーのことも十分考えて――」
「ん?俺がどうかしたか、伊作?」
 そこで、キョトンとした表情で留三郎が話しかけてきたので、伊作は慌てて手をわたわたと振って、
「なっ、なんでもない!なんでもないよ、とめさぶろー」
 とごまかしたのだった。
「そ、そういえば、助けてくれたあの忍者、助けてもらったのに、名前も聞かなかったなーなんて?」
「ああ、そうだな・・・どこの忍者だったんだろう」
「まっまぁ、忍者の世界には、そういうこともあるよね・・・」
 二人が言い合っていると、
 
ガンッ!

 急に背後で、何かがぶつかる音がした。
 振り返ってみると、文次郎が、自分の頭を何度も木にぶつけていたのだった。
「・・・何やってんだ、あいつ」
 留三郎が、あきれ交じりで言うと。
「ああ。あれは、くやしがっているんだ。文次郎は、自分が活躍できないと、ああして、木にぶつかる悪い癖があるんだ」
 仙蔵が、すでに馴れた様子で答えた。
「へぇ」
「へんな奴」
 文次郎の奇妙な反省会は、しばらく続いた。
 
 
そして。
「さて。今度こそ、忍術学園に向けて帰るぞッ!」
 留三郎がそう言って、荷車を引き始めると。
「俺も手伝う」
 そう言って、文次郎が荷車を押し始めた。
「私も手伝おう」
 次に、仙蔵が加わり、
・・・私も
「あ、俺も俺も!」
 長次と小平太も加わり、こうして、6人で仲良く荷車を引いて帰ることになったのだった。
 荷車を押しながら、伊作が、ふと留三郎に笑顔で話しかけてきた。
「やっぱり、6人で引いたほうがいいね、留三郎」
「ああ。いろいろあったけど、これでなんとか、日が暮れるまでには学園に帰れそうだ」
 こうして、6人は仲良く荷車を引いて忍術学園に帰ってきたのだった。
 
 
「あ!」
 帰ってきた6人の姿を見て、土井先生が喜びの声を上げた。
「見てください、山田先生!いつもは仲の悪い1年い組、ろ組、は組の生徒たちが、仲良く荷車を引いて帰ってきました!」
 土井先生のいつになく嬉しそうな声に、山田先生も表情をほころばせて頷く。
「・・・どうやら、うまくいったようですな、土井先生」
「ええ」
 その言葉は、まるで、伊作と留三郎の身ならず、仙蔵や文次郎、それに小平太や長次までもが、山賊退治に行くことを最初から想定していたかのようだ。
 はてさて、一体、どこまでがこの教師たちの手によるものなのだろうか。
「さて、それでは我々は、6人を出迎えに行きますか」
「そうですな」
 こうして、二人の教師は、いつになく満足そうな笑顔で、仲良く荷車を引いてきた6人を出迎えに行った。
・・・ところが。
 
 
「よし、じゃあお前たちはここまででいいぞ。あとは俺と伊作で持っていくからな」
 留三郎は、忍術学園の門に入った所で荷車をとめ、助っ人の4人に向かって行った
「そうだね。これ以上つき合わせるのも悪いし。みんな、ありがとう」
 伊作も、留三郎の言葉に頷き、4人に笑顔で言う。
「そうか。じゃあ、あとは頼んだぞ」
「ちゃんと食堂のおばちゃんのところまでもっていくんだぞー」
「ぼそ」
 伊作と留三郎の言葉に素直に頷き、面々は「おつかれー」などと言って手を振りながら去っていった。
 ・・・・のだが。
おい、ちょっと待て留三郎。
まさかお前、ここまでの手柄を独り占めするつもりじゃないだろうな?」
 一人だけ、留三郎に反対の声を上げたものがいた。文次郎だった。
 思ってもいなかった言いがかりをつけられ、留三郎はブチリときた。
「はぁッ!?俺はただ、これ以上お前たちをつき合わすのは悪いと思ったから言っただけだぞ!?」
「信用できんな!とにかく、この荷車は、俺が食堂まで持っていく!」
 そう言って、文次郎が勝手に一人で荷車を引き始めたので、留三郎は焦って荷車を前方から押し戻そうとした。
「何をするッ!留三郎ッ!」
「文次郎、お前こそ、これは俺と伊作の仕事だぞッ!」
「何を言う、ここまで運んできたのはこの俺だッ!だいたい留三郎、お前、荷車を引くフリをして、サボっていただろうッ!」
「何だとッ!?言わせておけば、文次郎、勝負だッ!」
 留三郎が急に文次郎に掴みかかってきたので、文次郎も、応戦とばかりに荷車をとめて留三郎に掴みかかった。
 こうして、あっという間にふたりの取っ組み合いのけんかが始まってしまったのだった。
 
 
「・・・やっぱり、そうでもないみたいですね」
「・・・ですな」
 山田先生と土井先生は、せっかく褒めてやろうとした矢先に二人がケンカを始めたので、呆れてガックリと方をうなだれるしかない。
 二人の隣では、困り果ててオロオロしている伊作が、涙目で二人の教師を見つめてきた。仕方ない。二人の先生は互いの顔を見合わせると、ケンカ中の二人の間に急いで駆けつけた。
「おーい、二人とも!喧嘩はよせ!」
こうして、文次郎と留三郎のけんかは、このあと、食堂で夕食を食べるまで続いたのだった。
 


 
**************

「6人そろえば、怖くない!?の段」第2回、最終話でした。
ここまで長々とおつきあいいただき、本当にありがとうございました!

・・・なんとか、映画公開シーズンに間に合ってよかったですなんとなく。

次回、気が向けば、あとがきなぞ。

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