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トリブラに愛を注ぎつつ、私的おすすめ本の紹介や、読んだ本にまつわるssなど、思いつくままに・・・
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なんか続いちゃってます
落第忍者伊作」、略して「落・伊」

「行きはよいよい帰りが怖いの段」の第1回をお送りします。

伊作と留三郎に、危機が?
二人は無事、お魚を守ることができるか?(苦笑)・・・な、感じかと

では、よろしければ、以下、おつきあいください。



 

**************

 
 そして、その頃、第三共栄丸から新鮮な魚をもらった伊作と留三郎は。
「いっぱいもらえてよかったね、留三郎」
 機嫌よく荷車を引いて山道を登っていた。行きより随分と荷車重くなっているはずだが、自分たちの手柄で大量の魚が手に入ったとあって、そう重く感じないのが不思議である。
「ああ。これで、俺たちに遅刻も許してもらえるといいんだけどなー」
「きっと大丈夫だよ。だって、別に悪気があって遅刻した訳じゃないんだし」
「まぁ、そうだよな。
お前ってさ、いつもこう、貧乏クジばっかりだよな。別に、頭だって悪くないし、普通にやってれば、それなりになんでもできそうなのに、なんでそんな不運なんだ?」
「さぁ、わかんない。でも、これだけ不運な目にあってたら、いつか、ツケを返すようなものすごいいいことが起こってくれる気もするんだけどなー」
 願うように言う伊作に、留三郎は、ふと表情を緩めて励ました。
「・・・・ああ、くるさ。そのうちきっと、お前にもいいことがな」
 思いがけず真剣な留三郎の言葉に、思わず伊作は「えっ」と声を上げて留三郎の顔を見る。
 すると、留三郎はニッカと笑ってこう続けた。
「それに、そうでないと、俺も割に合わないしな」
「あ、それどういう意味?」
「そのままの意味だ」
「なんだよそれ、ひどくない?」
「別にひどくないさ。お前にいいことがあれば、俺にもいいことがある、そう思ってるだけだよ」
「ふーん」
 伊作は、留三郎の顔をうかがうよう見つめたが、やがて、納得したか、目をそらしたのだった。
 と、その時・・・

 
「あ、とめさぶろー、あそこ・・・」
 前方に、いかにもガラの悪そうな男が道端に座り込んでいるのが見えた。行きにも何度も見かけ、さらには第三共栄丸にも散々注意を受けた落ち武者たちだ。
 心なしか、行きしなよりも人数が増えている気がする。しかも、誰が伊作と留三郎を品定めするように見ているように感じるのは、気のせいだろうか?
「目を合わせるな、伊作。知らないふりをして通るんだぞ」
「うん」
 二人は、小声で頷きあうと、ひかえる必要のない足音までなぜか忍ばせて、男たちの横を通り過ぎて行った。
 幸い、男たちは、二人に襲い掛かる様子はない。
 どうやら、何事もなさそうだ・・・
「だ、大丈夫だったみたいだね、とめさぶろー」
「ああ・・・」
 二人が、ホッと胸をなでおろした、その瞬間――

 
「――おい、そこのガキども」
「ひいぃぃぃぃ~」
 背後から、いかにもガラの悪そうな男の声がして、二人はびくりとした。
「ど、どうしよう、とめさぶろー」
「とりあえず、無視だ!このまま知らないふりして逃げるぞッ!」
 留三郎は、そう言って伊作を促したが、次の瞬間。
「おい。無視してんじゃねぇぞ。おまえたちだよ、そこのガキ二人」
再度、背後から誰何の声が上がった。
「は、走るぞッ伊作ッ!全力疾走だッ」
「わかったっ。頑張る!」
 二人は、荷車を引いて駆け出した。全力疾走で山道を走り抜ける。
「オイコラ待てガキッ!」
 迫り来る男たちから、伊作と留三郎は必死に逃げた。
 しかし・・・
「む、無理だよ、とめさぶろー。こんな重たい荷車引いてたんじゃ、とても逃げきれない」
「そうだな・・・しかたない。この荷車はおいていくか?」
「駄目だよ!だってこれは、学園長先生から頼まれたものなんだもん。学園長先生も、忍術学園のみんなも、新鮮なお魚が来るのを待ってるんだ」
「でも、このままじゃ、とても逃げきれないぞ」
「そうだよね・・・どうしよう・・・」
 二人が息を切らせながら言い合っていると。
「逃がさねぞ、ガキども」
 すっかり、前方に回り込まれてしまった。相手は二人いたのだ!
 前方と後方、両方を固められ、二人の退路は断たれた。絶体絶命のピンチである。
「な、なに、おじさんたち・・・私たちに、何の用なの?」
「見てわからんか、ガキども。俺たちは、山賊だッ!」
 前方をふさぐ大男は、そう言って手にした武器を振りかざした。
 ・・・それは、漁業などで使う、槍だった。
「「・・・え?」」
 思わず伊作と留三郎は、目を丸くして動きを止めてしまった。
「ねぇ・・・とめさぶろー。あれって、どう見たって、魚を捕まえる槍だよね?」
「あ、あぁ、そうだな」
「でも、この人たち、山賊なんだよね?」
「そう、言ってたな」
「ほんとにこの人たち、山賊なのかなぁ?」
「山で出たから、山賊だろ」
「山で出ようと、川で出ようと、海賊は海賊だよ」
「それは向こうが決めることじゃないのか」
 すっかり“山賊”(自称)の存在を無視して話をつづける二人に、“山賊”からは、「おーい、無視すんなよー」という声があがる。
「とにかく、どっちにしたって、悪い奴は悪い奴だよ。だからさ、とめさぶろー、今のうちに早く逃げようッ」
“山賊”があきれ返っている隙を突いて、二人は全力疾走を始めたが――
「おい。誰が帰っていいと言った?話はまだ済んでねぇぞ」
 鋭くとがった槍の先を突き付けられ、二人は足先まで震え上がった。
 やはり、逃亡は無理だったようだ。
「俺たちは山賊だ。命が惜しけりゃ、そこの荷車を置いていきやがれ」
「だ、だめだよッ!これは、学園長先生に頼まれた、大切なお魚なんだ!」
 伊作が、なけなしの声を必死に張り上げる。
「だったら、力づくでも奪うしかないなぁ」
 ニタニタと下卑た笑いを浮かべながら、二人の男が近づいてきた。恐ろしさに思わず後ずさりながら、伊作は留三郎の顔を見た。悔しげに拳を握り締める留三郎は、力いっぱい山賊を睨みつけていた。
「ど、どうしよう・・・とめさぶろー・・・」
 と、伊作が問いかけると、留三郎は、さらりとこう言ってのけた。
「・・・こうなったらもう、戦うしかないな」
「――戦うって、私たち二人で!?」
「仕方ないだろッ!他に誰もいないんだから」
 そういう間にも、男たちはじりじりと近づいてくる。
 どうしよう!?伊作が困った顔を留三郎に向けた瞬間――
「――山賊めッ、これでも食らえッ!」
 留三郎が、懐から何かを取り出して投げた。男のうちの一人に命中し、男はのけぞって倒れる。
 さらに、男に命中した瞬間、「何か」からは霧のごとく白い煙が蔓延しあたりを満たした。
「あ、アニキっ!」
 もう一人の男が、あわてて倒れた男に駆け寄ろうとするが、白い煙を吸い込んで、激しくむせてしまう。物凄い破壊力だ。
「おおっ!すごーいとめさぶろーっ!」
 伊作が感心して称賛の声を上げる。
「・・・ねえ、ところで、いったい何を投げたの?」
「ああ、あれは、1年は組の教室で使ってる黒板消しだよ」
「・・・黒板消し?」
 キョトンとして目を丸くする伊作。
「そう。よく土井先生が授業中に投げてるじゃないか。実は、今朝投げつけられた時、こっそり拾っておいたんだ」
「へぇー。さすが、とめさぶろー!」
「自慢じゃないが、1年は組はよく掃除をサボるだろ?だから、黒板消しにはけっこうな量のチョーク粉がたまってるんだよ」
「おおっ!」
 道理で、山賊も一撃できるわけである。
 しかし、なぜだろうか。山賊は一撃できたはずなのに、留三郎の説明を聞いて、二人がちょっとだけ、哀しい気持ちになってしまったのは。

 
「ガキどもッ・・・ふざけた真似、しやがって・・・ッ」
 二人が喜び合っていると、山賊がけほっけほっとむせながらあらわれた。
「見たか山賊ッ!とめさぶろーは、1年は組きっての武闘派なんだぞー!」
 思わず伊作が得意顔で胸を張ると、山賊はさらに怒りで顔を真っ赤にした。
「もうゆるさねぇ!ホンキでやってやるッ!」
「よーしッ!じゃあ、この調子でやっちゃえ、とめさぶろー!」
「・・・あのなぁ、お前もちょっとは手伝えよ伊作」
 自分の背後に向かって、留三郎はぼやいた。
 何しろ、さきほどから伊作は、胸を張るばかりでの実は留三郎の後ろに隠れっぱなしなのだ。
「えー、手伝うって、どうやって?」
「何でもいいから!」
 留三郎に怒鳴られて、伊作はどうやって手伝おう?と悩んだ。
 しかし、それも少しのこと。すぐに伊作はポンッと手を打つと、
「よしわかった。私も、後ろから山賊に向かって石を投げよう」
 そう言って、伊作は石を投げ始めたのだが・・・
あぁッ、いい!やっぱいい!伊作ストーップッ!
 すぐに、そんな留三郎の声が聞こえてきた。
「――え、なんで?」
「なんでも何も・・・さっきから、俺にしか当たってないじゃないか・・・」
「え?」
 よく見ると、伊作の投げた石は、飛距離が足りなかったのか、山賊に見事の一つも当たることなく、すべて留三郎に命中していたのだった。
「あ、ごめん・・・」
 “よい子の投げた石は必ず味方にブチ当たる”これは、『落・伊』のお約束なのだ。
「お遊びはこれくらいでいいか、ガキども」
 そういう間にも、とうとう二人は追い詰められてしまった。二人の背後には、荷車があるだけ。もはや逃げ道はない!
「さぁ、さっさとその荷車を渡しやがれ。それとも・・・」
 山賊が、二人を交互に見てニヤリと笑う。それで、二人はすべてを察した。万事休すだ!
 と、その時、留三郎が伊作の前で、彼を守るように大きく両腕を広げた。山賊に向かって、力の限り叫ぶ。
「ま、待てっ、山賊ッ!伊作には手を出すな!やるならこの俺をやれッ!」
「と、とめさぶろー・・・」
「こいつはよわくって、泣き虫で、おまけに不運だから、倒しても何の得にもならないぞッ!」
 そう言う留三郎の足だって、震えているじゃないか・・・
 背後で見ている伊作は、そうつぶやく。もちろん、留三郎には聞こえない声で。
 そして、それを見ているからこそ、伊作も叫ぶ。
「い、いやッ!私だって、本当は強いんだぞッ!だから、留三郎には手を出すなぁッ!」
「いさく・・・」
 背後から、力一杯の叫び声を聞き、留三郎は小さく呟いた。
 無理すんなよ・・・と。
「む、なんかここにきて急に友情に目覚めやがったか?・・・まあいい」
「あくまでも荷車を置いて帰るつもりがないなら、二人まとめてやっちまうだけだ!」
 二人の山賊が襲ってきて、伊作と留三郎は目を閉じた。
 


**************

「行きはよいよい帰りが怖いの段」第1話でした。
ここまでおつきあいいただき、ありがとうございました!

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