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トリブラに愛を注ぎつつ、私的おすすめ本の紹介や、読んだ本にまつわるssなど、思いつくままに・・・
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まだ続いちゃってます
落第忍者伊作」、略して「落・伊」

「お魚もらいにぼくらは行くの段」の第2回をお送りします。

今回は、いよいよ伊作、・留三郎が、海に到着。
泳げないのに海賊の頭だというあの方も出てくる・・・はずです

では、よろしければ、以下、おつきあいください。





 

**************

そして、それからしばらくたって。
二人は、兵庫第三共栄丸のいる海に向かって、山道を歩いていた。
「あーあ。結局大喧嘩になっちゃって。とめさぶろーって、ほんと戦うの好きだよねぇ」
 伊作は、両手を頭の後ろで組みつつ、ふてくされた様子でぼやいていた。その横では、申し訳なさそうに留三郎が両手を合わせている。
「・・・あー・・・その、ごめん伊作。なんか、俺たちのケンカの巻き添え食らっちゃったみたいで」
「巻き添えって言うか、終わってみたら、なんで二人より私のほうが傷が多いのか、わからないんだけど」
「いやぁ、それは、何というか・・・」
やっぱり、伊作の前でケンカは極力控えよう、そう反省した留三郎だった。
「それにしても、なんかこのへん、物騒だな」
辺りを見回して、留三郎は言った。
「ホントだ。なんか、目つきのわるそーなお侍さんがたくさんいる」
 伊作もうなづく。そうなのだ。なぜか彼らの道行く先々には、いかにも落ち武者といった感じの武士たちが道端に腰を下ろしており、台車をひく二人を、目線の端々で睨んでいるのだ。
 彼らに聞こえないようにと小声になりつつ、二人は話を続けた。
「近くで戦でもあったのかな?」
「さぁ・・・」
とりあえず、目を合わせないようにしよう。関わり合いになるとロクなことがないから。
そう心に決めて、言葉少なに海までやってきたのだった。
 
 
――そして。
「で、私たち海に着いたけど」
そういうと、伊作は留三郎と目を見合わせた。
「・・・誰もいないねー」
「そうだなー」
留三郎もうなづく。
「どこにいるんだろ、その第三共栄丸さんって人」
「うーん」
二人は、あからさまなよそ者感をあらわにして辺りを見回した。しかし、人っ子一人見当たらない。
「伊作、その人に会ったことあるの?」
「ない。とめさぶろーは?」
「ない」
「「・・・どうやって、探せばいいんだ?」」
 
――根本的問題。
 
「あ、そうだ。私、土井先生から第三共栄丸さんって人の似顔絵もらってきたんだった」
 ぽんと手をたたくと、伊作は懐から一枚の髪を取り出した。
「んーどれどれ?」
 留三郎がのぞきこむと・・・
「あ、あそこにいる人に似てない?」
「あ、そうだなーあそこで溺れてる人に・・・・って」
「「えっ!?」」
人が溺れている!!
 沖に少し入ったところで、いかつい顔をしたヒゲ男が、顔に似合わず両手を必死にバタバタさせている。
 挙句の果てには、
助けてくれー。泳げないんだーッ!
 などと叫んでいるではないか!
「大変だッ!助けなきゃッ!」
「伊作はここにいろ!」
伊作が飛び出すよりも早く、留三郎が海に飛び出した。飛び込みの姿勢に入るや否や、矢継ぎ早に叫ぶ。
「伊作はここで、救護の準備をしておくんだ!」
「わかったッ!」
伊作が頷くのを聞くが早いか。上着を一枚脱ぎ捨てると、勢いよく海に飛び込む。もとより体力派の留三郎は、こういうときの行動は素早いのだ。
「そこの人、大丈夫か!」
 留三郎が呼びかけると、ヒゲ男は情けない声を上げた。
「あ、助けてくれ~泳げないんだっ!」
「今助けに行くッ!さぁ、俺に捕まって!」
その男は、留三郎の小さな肩に捕まると、落ち着いたようにもがくのをやめた。
何とか助かりそうだ。
そして無事、砂浜に上がると、男はぐったりとして倒れこんでしまった。

 
「おっ、重かった・・・こっちが死ぬかと思ったー・・・」
留三郎もゼエゼエ息を吐いているところを見ると、かなり消耗したようだ。
「ねぇ、とめさぶろー。この人が本当に第三共栄丸さんだと思う?」
 倒れこんだ男を見下ろして、伊作がどこか緊張感に欠ける声で言った。すると、留三郎が当然とばかりにうなづく。
「だって、土井先生が書いてくれた似顔絵にそっくりじゃないか」
「でもさ、この人さっき泳げないって言ってたよ。海賊のお頭で泳げないって、おかしくない?」
「確かに」
二人が話し合っていると、
「・・・あ」
大量の水と魚を吐き出して、男が目を覚ました。
「お、俺は一体?」
目を開けた男を、二人は両脇から覗き込んだ。
「おじさん、大丈夫?」
「おお、お前たちが、助けてくれたやつらか。俺は泳げなくてよ。いやぁ助かった。
ん?ところで、お前たちは誰だ?見かけない顔のようだが・・・」
 すると、伊作が少し胸を張って言った。
「私たちは、兵庫第三共栄丸さんから、新鮮なお魚をもらってくるように頼まれたよい子たちでーす」
「おおっ、すると、お前たちが、学園長先生の言ってた、お使いにきた忍たまか!」
「「そうでーす」」
「1年は組の食満留三郎でーす」
「同じくは組の善法寺伊作でーす」
 交互に手を上げる二人をみて、男はフムフムとうなづいた。
「ほぉ、1年生か。道理でちびっちゃいはずだ」
「あのー、俺たちのことを知っているってことは、あなたが第三共栄丸さんですか?」
「ああ、そうだ。俺が兵庫水軍の総大将、第三共栄丸だ」
「でも、さっき泳げないって、言ってましたよね?」
「ああ、俺は泳げない。泳げないが、海賊のお頭なんだ!」
何故か胸をそらす海賊のお頭に、二人はあきれ返った
「海賊のお頭なのに、泳げないなんて」
「「・・・変なの」」
ん?そこ!何か言ったか?
 しかし、海のお頭に鋭く睨まれ、二人はビクリとして必死に首を横に振った。
「なっ、なんでもないです・・・」
「同じく・・・・」
 二人がおとなしくなったのを確認すると、第三共栄丸は満足そうに首を何度もたてに振った。
「うむ、ならよろしい。
二人とも、お使いご苦労だったな。新鮮な魚なら、あそこにたくさんある。助けてもらったお礼だ。お前たちに免じて、好きなだけ持って帰っていいぞ」
「うわぁ、やったね、とめさぶろー」
「ああ、やったな伊作」
ただーしッ!
急に、第三共栄丸がおどろおどろしい口調になって、人差し指を立てた。
「いいか、お前たち。帰り道には、くれぐれも気をつけるんだぞ。昨夜、この近くで戦があって、城が丸々一つ燃えちまったところだ。そんでこの付近を、戦で負けた連中がウロウロしている」
「そっか、それで」
「ここへ来る途中にも、ガラの悪そうな人がたくさんいたんだね」
 伊作と留三郎は、顔を見合わせつ頷く。
「奴らは、何をしでかすかわからねぇからな。本当なら、護衛に部下の一人や二人でもつけてやりたいところだが・・・あいにくと、戦の残党が海を荒らしまわってるせいで、全員海のパトロール中だ。
だからお前たちだけで、くれぐれも襲われねぇように、気をつけるんだぞ」
「「はーいっ」」
二人は仲良く手を挙げた。さらに、伊作が胸を張って言う。
「大丈夫ですよ。だって、ここにいる留三郎は、1年は組きっての武闘派なんですからッ!」
 自分ごとでもないのに、なぜか胸をはる伊作。
「ほぉ。そりゃあ頼もしいな」
 
 
「じゃあ、二人とも、気をつけろよー」
「お魚ありがとうございましたー」
「おぉ。学園長先生にも、よろしく言っといてくれー」
「はーい」
 こうして、伊作と留三郎は、魚でいっぱいになった荷車を引きながら、もと来た道を戻り始めたのだった。
 
 
「・・・さてと、行ったか」
 二人の姿がすっかり小さくなっていくのを確認すると、第三共栄丸が呟いた。その顔つきは、先刻までの「泳げない海賊」とは打って変わって、海賊のお頭らしい、キリリとしたものに変わっている。まるで、これまでの彼は全て演技だったかのようだ。
「行きましたね、お頭」
 お頭の声に応えるようにして、背後から一人の男が顔を出した。
 そう。頷く第三共栄丸の背後には、彼がいないと言っていたはずの、兵庫水軍の面々の姿があったのだった・・・。
 


 
**************

「お魚もらいにぼくらは行くの段」(汗)第2話でした。
ここまでおつきあいいただき、ありがとうございました!
 

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