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・・・という今日は、すでに5日なんですが;
今年も、トリブラとか、本の紹介とか、いろいろ・・・ぼちぼちやっていきたいと思っておりますので、
どうぞよろしくおねがいします!
と、いうわけで。
久々にトリブラを蔵出ししてみました!
蔵出しというか・・・
とりあえず、初書きの某異端審問局員さんです。
どなたかは、最後まで読んでのお楽しみ???
ただし、
非常に新年にはふさわしくない腹黒な内容なので、そこはどうかご注意を。
それでは、よろしければ、以下にて。
****************
独立戦争は、いよいよ終盤を迎えていた。
ヒスパニアから独立しようと、最初は勢いづいていたモロッコ軍だったが、その兵力も、今や初期の十分の一にも満たぬ。
仲間のほとんどを失った上に、彼らは今、ヒスパニアの敵兵によって周囲を囲まれつつあった。
夜になって、あたりは静寂に包まれているはずであるのに、火を煌々と炊く敵のあかりが、まるで地上に落ちてなお輝きを保ち続ける星のように眩しい。あちらでは、早くも勝利の宴をやっているようだ。まったく、いい気なものである。
明日になれば、おそらく侵攻が再開されることだろう。
それで自分たちは終わりだ。ヒスパニア軍によって、全滅されられるのだ。そのことを、ここモロッコ軍の僅かな陣営では、誰もが気づいていた。
死を目前にして、モロッコ兵たちの表情は皆、一様に暗い――
独立を高らかに掲げて放棄した当初でこそ、死することの恐怖などまったく感じなかった彼らであるが、今はまるで、死に取り付かれたようであった。
「降伏しましょう、将軍!我々はもうだめです!ここは、あきらめてヒスパニア軍に降伏の申し立てを・・・」
一人が、机を勢いよく叩いて叫ぶと、指揮官らしき大柄な男が、指揮棒をヒュッと発言者に突きつけて言った。
「それでは今まで我らがやってきたことが全て水の泡だ。またヒスパニアの支配下に戻っても、我々になんら良いことはない。」
すると、二人の言葉を引き継ぐようにして、周囲の男たちも口々に論争紛いの行為を始めた。
「だいたい、今更そんな要求をヒスパニア軍がのむものか。白旗を掲げた途端、全員皆殺しだ。」
「では、一体どうすればよいのだ?どうすれば我らは助かる?それこそ、要塞でも作って立てこもるか?」
「バカな!それこそ不可能な話だ!今からそんなものどうやってつくる!?普通やっても半年はかかるぞ。」
「敵はもう目と鼻の先だ。今夜中には決断をせねば、ぐずぐずしていれば、容赦ない攻撃が待つのみ!」
「こうなってはもう、いっそ奇襲をかけましょう。やつらが攻めてくる前にこちらからいってしまえば、多少の戦力をそぐことは出来るはず。その間に残った者たちが逃げて、体制を立て直すのですよ。」
「ううむ・・・。」
行く果てのない論争に、指揮官は頭を抱えて考え込むしかなかった。
次々と浴びせられた言葉は、どれも、既に指揮官の頭の中に存在したもの だ。そして、どれも彼の手により、口に出すこともなく却下されたものでもある。
――こんなときに、参謀が生きていれば・・・。
彼は、今更ながらそう思わずにはいられなかった。
この戦争において数々の名采配を振るってきた参謀役は、先日のヒスパニア軍との衝突でとうとう全員死んでしまった。大切な軍のブレインを失い、モロッコ軍の隊列に乱れが生じるのも道理である。
しかし、隊をまとめるリーダーシップにおいては類を見ない名将軍の彼といえども、知略においては少々不得手といわざるを得なかった。「孤軍の誠将」という彼の渾名が示すように、彼のリーダーシップの多くは、彼の誠実さから来る人望によるものなのだ。
しかし、参謀を欠いた今、彼をなくして、今後のモロッコ軍の方針を決められるものはいない。彼がやるしかないのだ。
そう、彼がやるしか・・・
「ちょっとすみません。お話中に大変申し訳ないのですが。」
緊張感をも打ち破るかのようにして、くつろいだ声が上がったのは、その時だった。
深刻なその場の雰囲気にはおおよそに合わぬ落ち着いた響きに、一瞬、あたりが水を打ったかのように静まり返る。
そののち、彼らは発言主を探そうとあたりを見回すが、同胞に、それらしい人物が見当たらない。もしや、先刻の声は、死の恐怖に脅える彼らの幻聴だったか?
「あ、いえ、ここです。私ですよ」
しかし、幸いにもその声は幻聴などではなかった。
発言主が、自ら立ち上がって手を挙げたからである。
どうりで見つからないはずだ。意外にもその人物は、寄せ集められた傭兵たちの中にいたのだから。
男は、納まりきらない黒い髪を切りそろえた、学者然とした風貌をしていた。
いかにも強面の多い傭兵たちの中にあって、彼だけがどこか知的な風格を保っている。
しかし、男を見た瞬間、指揮官は目を疑った。傭兵たちは、残らず全員自らの目で審査してきたはずであるのに、こんな男、どこかにいたか?
「なっ、なんなのだ、そなたは!?まさか、怖気づいたか?そんなに戦うのが怖いというのなら、とっとと逃げるが良いわ。」
男に得体の知れぬ恐怖を感じつつ、指揮官は容赦なく言い放った。
すると、男は静かに首を横に振り、まるで出来の悪い生徒を嘆く教師のように、訂正してきた。
「いいえ、そうではありませんよ、指揮官殿。ちょっと私にいい考えがあるので、聞いていただけないかと思いまして」
「はあ?」
このような場において、よくもコイツは大胆な発言ができたものだ。
その場にいたものはこの時、皆そう思ったことだろう。
「そなたは、傭兵の分際で、我々モロッコ軍司令部に意見するというのかね?」
全員の意見を代表するようにして、一人の壮年中将がそう言うと、男は、嘯いた。
「そんな大それたものでもありませんよ。ただ、こんな傭兵の端くれの意見でも、もしかすると、何かに役立つかもしれないじゃないですか。」
糸のように細い眼をさらに細めて、なぜか男は笑った。そう、このような局面に来て、なおも笑うというのだ。この瞬間、全員の頭の中で、同じ疑問が浮かんだ。
――すなわち、この男は何者なんだ?、と・・・・
しかし、このような場に来て、彼の素性について冷静に判断できるものは、残念ながらいなかった。誰もが唖然とする中、また別の壮年軍人が、震える声で男に促す。
「なっなんなんだ?言ってみろ・・・」
「はい。発言の場を与えていただき、感謝いたしますよ。」
男は、まるで講義を始める教授のごとく軽く一礼すると、確信めいた口調で語り始めた。
「先ほどのご意見、なかなか的をついていらっしゃいます。そう、ここまでくればもう奇襲あるのみ。やつらが攻めてくる前に、こちらから反撃するしかないですよ。」
「しかし、先ほども言ったが、ここにはあれだけ結集した敵兵に打撃を与えられるだけの人材も資材もない。いまさら新たな傭兵を雇うこともできなければ、武器や食糧の調達すらままならん状況だ。ここにあるのは、灼熱の砂漠とピラミッドのみ。それとも何かね、君は、このわけのわからぬ歴史的建築物の中で発掘作業にでも勤しめと?」
馬鹿馬鹿しい、とでも言いたげに一人の軍人が吐き捨てると、男は、少し目を見開いた。その目はどこか、いい質問をしてきた生徒を褒める教師に似ている。
「なかなかいい線を突いていらっしゃいますね。ですが、残念ながら、違います。あんな中に立てこもったのでは、こちらが先に餓死してしまいますからね。」
「では、どうするというのかね、君は?」
「ですから、要塞を作るのですよ。そして、それを使って奇襲をかけるのです。」
「馬鹿な!普通につくると半年もかかるんだぞ!第一、こんな砂漠のど真ん中で、どこから材料を調達して来るというのだ!?」
すると、男は軍人たちの批判などすっかり無視して、空を仰ぎ見た。もはや雨風をしのぐテントすらない彼らの陣営の真上には、まるで彼らに冥途の土産でも与えるかのような美しい星空が広がっている。
「わたしは、ローマ大学で神学というものを学びました。その中で、カルタゴをその昔吸血鬼どもの手から守ったという、勇敢なる女王の話も聞いています。」
「それが何だというのだ?」
「その中で私は、ピラミッドと呼ばれる建築物のことも聞きました。何でもあの建物は、一定の形に切り出された石を積み上げただけのものらしいですね。」
なぜそんなことをこの傭兵が知っているのだ?
冷静に考えれば、そんな疑問が出てくるだろう。
しかし、この時得体の知れない男の講義に聞き入るモロッコ兵たちには、そんな事を考える余裕などなかった。
「それでは、君はその巨大な石の建築物を使えと言いたいわけか?全員が、その石を武器にして、敵が逃げ出すまで攻撃するとでも?」
すると、今度は男は、残念そうにまた目を細めた。
「違いますね。私は奇襲をと申し上げたのですよ。そんなその場しのぎの短絡的な作戦では、とてもやつらには勝てません」
たっぷりと嫌味を含んだ男の発言に、発言者たる指揮官はムッとしたが、このとき彼の部下たちは、悲しいことに男の方にすっかり魅入られていた。
「では、その岩の塊を使ってどうするというのだ?」
別の軍人が間をいれずに問いかけると、男はまた目を細めて微笑み、静かに告げた。
「――だから、それで要塞を・・・いいえ、壁を作るのですよ。
そう。勝利の宴ですっかり士気の緩みきっている彼らの周りに、あのピラミッドのごとく高々と石を積み上げて、彼らを包囲するのです。そして、夜明けとともに、壁の内側に火を放ち、彼らを一網打尽にします」
「なっ何!?」
思いもしない妙策に、どよめきがあたりを包む。
そもそも、かの歴史的な大建築物が切り崩し可能なものであったなど、誰が知りえただろうか?
いや――
そ もそも、あの高々と積み上げられた石を、恐れ多くも単なる建築資材の倉庫だなどと、だれが言えただろうか?
イブリースは人類全体の女神だ。あの忌まわしき吸血鬼から人類を救った、偉大なる英雄なのだ。まさか、その女神の象徴たるピラミッドを、たかだかモロッコとヒスパニアの内戦などのために、壊すというのか?
しかし、誰もが得体の知れぬ傭兵の大胆発言に戸惑う中、指揮官だけは、この男のことを、少しずつ思い出し始めていた。
そういえば、雇った傭兵の中にただ一人、ローマ大学出身のものがいなかったか?しかも、神学の博士号までとったという者が・・・
指揮官が頭を悩ませる間にも、今や男は、宗教祖のごとく両手を高らかに広げ、預言めいた言葉を紡いでいた。
「そうですよ。だって、建築資材なら至る所にあるじゃありませんか。しかも、ご丁寧に積み上げやすいように加工までしてくださっています。これはむしろ、神が我々への祝福にくださったもの、と考えてもいいのではありませんか?」
――こいつは、本当に神学の博士号をとったというのか?
神聖なる神の建築物を簡単に破壊すると言ってみせた傭兵に、指揮官は、そんな疑問を抱かずにはいられなかった。
もし、この傭兵の申告が本当だとすれば、空恐ろしい事実だ。こんな信仰心のかけらもない男に、神学の一つも諳んじられるものか!
しかし、このとき指揮官は、もはや自分たちを地獄へと導こうとしている主 が誰なのか、気づいていた。そう、ローマ大学神学博士にして、戦闘能力も申し分のない我らがモロッコ軍きっての腕利き傭兵。
確か名は――
「そうか。てめえは、例の“モロッコの悪魔”か。傭兵達の間でうわさになっていたぞ。」
指揮官は男を鋭く指差すと、確信に満ちた声でそう低く言った。
「ディ・・・“モロッコの悪魔”!?」
「こ、この男が・・・っ?」
モロッコ軍人たちも、口々に指揮官の言葉を繰り返すと、驚いた目で男を見つめる。
すると、男はまた意図のような目を細めて、軽く肩をすくめて見せた。やれやれ・・・とそんな余裕綽々の言葉を吐きながら、弁明を紡ぐ。
「そんな噂には及びませんよ。ただ私は、戦闘要員としてなすべき最大限のことをやってきたまでのことです。そして、それは今回に限っても同じこと。」
涼しい顔で、悪魔は冷淡な言葉を告げた。
「さて、どうしますか、指揮官殿?」
****************
・・・というわけで、傭兵時代のマタイさんのお話でした。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
クロいですよね~マタイさん。
いつか彼には、騎士団のミスター優男バルタザール氏と対決していただきたいものです。
あ。
いろいろと、つめ切れていないところがあり、矛盾も多いかとは思いますが・・・
どうか、暖かいお心で見逃してやってくださいませ
ちなみに、このお話は実は、
「レオンVSマタイ再び」というテーマで書く予定の長編の冒頭だったり・・・してました(え)
ただ、どうがんばっても、戦略とか戦略とか戦略とか考え付かず、ずっとお蔵入りしてまして。
今回、ようやく引っ張り出してきた次第です。
なので、もうちょっとだけ書いてある続きも・・・機会があれば、推敲して出す・・・かもしれません(?)